夢枕獏は1951年生まれの小説家・随筆家・写真家・漫画原作者。本名を米山峰夫といいます。小説家としてのキャリアは1980年代半ばから始まり、特に1986年に『オール讀物』に掲載された短編「陰陽師」がシリーズ化される転機となりました。その後、登山冒険小説『
神々の山嶺』で1998年に柴田錬三郎賞を受賞するなど、多様なジャンルで秀作を発表してきました。日本SF作家クラブの8代目会長(1994~1995年)を務めるなど、文芸界での評価も高い作家です。小説だけにとどまらず、漫画原作や随筆、写真活動など多彩な表現活動を展開する器用な創作者として知られています。
夢枕獏を代表する作品は『陰幽師』です。平安時代の陰陽師・安倍晴明を主人公とした伝奇小説で、1988年の初刊行以来、多くの短編が積み重ねられてシリーズ化されました。晴明と貴族で楽人の源博雅という二人の人物関係を軸に、怪異譚や歴史冒険小説の要素が織り交ぜられています。一方『
神々の山嶺』は登山小説という全く異なるジャンルで、エベレスト無酸素単独登頂に挑む登山家の極限の姿を描きました。また『
餓狼伝』は格闘技を題材にした小説で、人間の肉体と精神の可能性を探る作品です。各作品は映画化・漫画化されるなど、強いストーリーテリングと題材の多様性、そして人物の心理描写の深さが共通する特徴となっています。
夢枕獏の作品は、扱うジャンルによって全く異なる読み心地が得られます。まず入門には『
陰陽師』がお勧めです。短編形式で読みやすく、平安の異世界に引き込まれる面白さが味わえます。現在も連載中で、岡野玲子による漫画版『
陰陽師 玉手匣』も並行して読むことで、原作と漫画それぞれの表現の違いを楽しむこともできます。より本格的な冒険小説を求めるなら『
神々の山嶺』は単行本で完結しており、映画化作品との比較も興味深いです。格闘技小説『
餓狼伝』は『新・餓狼伝』へと続く長大なシリーズで、じっくり読み込む覚悟が必要ですが、その分の豊かな世界観が約束されています。多くの作品が文庫化されており、入手性も良好です。