三重県出身の柳広司は、1998年の歴史群像大賞佳作入選を経て、2001年に『黄金の灰』で小説家としてデビューしました。法学部の出身という背景が、論理的で緻密なストーリー構成に活かされています。当初は歴史上の偉人を重要な役割として扱う歴史冒険小説を手がけていましたが、2008年の『
ジョーカー・ゲーム』で大きな転機を迎えます。本作でオリジナルキャラクターを主役に据え、スパイ・ミステリーの領域へ活動を広げました。この作品は「このミステリーがすごい!」第2位、「週刊文春ミステリーベスト10」第3位に選ばれ、吉川英治文学新人賞と日本推理作家協会賞を受賞。以降、スパイ小説の第一人者として知られるようになります。
柳広司の最大の代表作は『
ジョーカー・ゲーム』です。第二次世界大戦中の日本を舞台に、秘密戦争組織「D機関」に属するスパイたちの知略と駆け引きを描いた連作短編集で、シリーズ累計130万部超の大ヒット作となりました。本作の成功を受けて『ダブル・ジョーカー』『パラダイス・ロスト』『ラスト・ワルツ』といった続編も刊行され、拡がりのあるシリーズ構想が展開されています。また『トーキョー・プリズン』など現代ミステリーも手がけており、時代を問わず知略と秘密、心理戦を軸とした物語を得意としています。柳の作風は、緻密な構成と登場人物の内面描写に定評があり、単なるアクションではなく知恵比べの面白さを前面に打ち出しています。
柳広司を初めて読む場合は、やはり『
ジョーカー・ゲーム』から始めるのが最適です。本作は短編集形式のため、個別のエピソードから気軽に入読でき、スパイ小説としての面白さを端的に体験できます。シリーズを続けたい場合は、『ダブル・ジョーカー』『パラダイス・ロスト』『ラスト・ワルツ』へと進むことで、D機関とその周辺人物の物語がより深まります。2015年には実写映画化もされており、映像作品として体験してからの読書も選択肢になります。現在、各作品は文庫・新書版で広く流通しており、入手困難な作品はほぼありません。歴史冒険小説から知略戦へと進化した作家の軌跡を追う読み方も興味深い道です。