関川夏央は1949年新潟県長岡市生まれの小説家・ノンフィクション作家で、漫画原作者としてのキャリアも持つ。上智大学で外国語を学んだ後、出版社の編集者を経て、1977年に漫画家谷口ジローと出会い、意気投合。以後、二人は伝説的なコンビとして活動しました。漫画原作者としては主にハードボイルル作品で知られ、1980年代からはノンフィクションやルポルタージュの執筆に軸足を移しています。学生時代の家出や多彩な職歴など、型にはまらない人生経験が、彼の創作の多角的な視点を培ったようです。早稲田大学や神戸女学院大学などで教鞭も執っており、日本の知識人シーンにおいて重要な位置を占めています。
関川の代表作は何といっても『
坊っちゃんの時代』です。1987年から1996年にかけて『
漫画アクション』で連載されたこの作品は、夏目漱石を中心に明治の文学者たちの人物関係と時代背景を描いています。『
坊っちゃん』を単なる痛快譚としてではなく、時代の変化に取り残された者たちの悲劇として解釈する関川独自の視点が特徴です。実在の歴史的人物たちを登場させながら、「もしこの二人がこの時点で出会っていたら」といった歴史的な仮定を重ねることで、知的で奥行きのある物語世界を構築しています。この手法は山田風太郎の影響を受けたものです。他の作品『
事件屋稼業』『
復讐の女戦士 ジタンヌ90』など、関川の原作は歴史性と人間ドラマを融合させるというスタイルが一貫しており、谷口ジローの緻密な画力とあいまって、漫画という表現形式の可能性を拡げました。
関川夏央の漫画原作を知るなら、まずは『
坊っちゃんの時代』から始めるのが最適です。全5巻で完読でき、明治日本という具体的な時代背景を通じて、関川の歴史観と人物描写の手腕が最も明確に表れています。電子版や復刊版を含め、現在でも入手しやすい状況にあります。その後、『
事件屋稼業』などの他作品へ進むことで、彼の多面的な表現世界をより深く理解できるでしょう。谷口ジローとのコンビで生まれた独特の美学――知的な原作と谷口の洗練された描線の相乗効果――を体験することで、漫画という媒体における原作者の役割が何かを考えさせられます。関川はその後、小説やエッセイの執筆に活動の中心を移していますが、漫画原作期の仕事は今なお色褪せない価値を保っています。